菊五郎・菊之助 役者のことば

2010年12月15日 「全力で勤める玉手御前」 尾上菊之助

玉手御前とは、なんと複雑で多面的な性根の持ち主なのでしょうか。
今月、日生劇場で通し狂言『摂州合邦辻』の玉手御前を勤めています。

今年の五月、大阪松竹座で『合邦庵室』を出させていただいたのが、つい昨日のことのようです。こんなにすぐに再び、玉手を演じさせていただけるとは思ってもおりませんでした。

これも、ひとえにお客様が応援してくださったおかげ様だと感謝致しております。
『合邦庵室』だけですと、義理の息子に恋をし、実家を訪ね夫婦にしてくれと母に頼み、俊徳丸と浅香姫がともにいるのを見ると嫉妬に狂乱する玉手御前は、現代人にはなかなか理解しずらい女性かもしれません。

今回、通しで上演することで、『合邦庵室』に至るまでの玉手御前の行動や心の内をお見せすることができ、いかに恋が人を狂わせるかがよくご理解いただけるのではないでしょうか。
演じておりましても、場面、場面で腑に落ちることが多く、やはり時には通しでの上演も役者にとっても勉強する機会なのだと、ありがたい気持でいっぱいになります。
毎月、見取り狂言でいくつもの役を演じる機会を与えられる幸せもあります。

お客さまから、「よく1日に何役も演じられますね」と訊ねられることがあります。役者にとっては、ひとつの興行で何役も勤めるのは、とても光栄なことで、それぞれが違う役ですから、気持の切り替えさえうまくいけば、気もかわってかえって楽しいものなのです。
逆に『NINAGAWA 十二夜』で経験致しましたのは、ひとつの芝居で何役かを勤めているとはいっても、同じ狂言を1日二度演じるのは、意外に重荷に感じられたり致します。もちろん贅沢な悩みだとは存じておりますが、歌舞伎役者は、現代演劇の方々のようにマチネとソワレ、昼の部と夜の部に同じ役を勤めることに慣れておりません。
そんな習慣もあって、今回の大役、玉手御前を全力で勤めるのは、私にとって大きな挑戦であるとともに、自分との闘いでもあります。
何日のどの回をご覧になったお客様にも、満足して帰っていただきたい。その為には、つねに気力、体力を充実させていなければいけません。今月は、この舞台、玉手御前一役に、すべてを投げ打つ気持で舞台と向かい合っております。千穐楽まで理想を高く持つようでありたいと願い、一歩一歩、玉手の心の内に迫っていくつもりです。

応援をよろしくお願い申し上げます。


2010年12月9日 「初めてのおじいさん」 尾上菊五郎

今月は、日生劇場「通し狂言 摂州合邦辻」で合邦道心を初役で演じております。おばあさん役は二・三度演じておりますが、おじいさん役は初めてでございます。

日生劇場で歌舞伎を…とお話を頂戴致しました時、世話物より義太夫狂言の方が向いていると思い、又、玉手御前は私も演じておりますが、「十九や二十の年ごろで」と台詞にもありますように若いですし、全体をみますと菊五郎劇団のメンバーもこのお芝居にすんなり入っていける年頃になって参りましたので、通しで上演をさせて頂く事に致しました。

合邦道心は、私が俊徳丸や浅香姫を演じていた時の、八世三津五郎のおじさんや、十七世羽左衛門のおじさんの素晴らしい印象が強く残っております。娘に義理を重んじて辛くあたるのか、本当は娘がかわいいのか…どちらでも取れるお芝居ですので、それはご覧になるお客様お一人お一人に解釈して頂きたいと思います。役者は、見得をきるところは見得をきる。とにかく、台本に書かれた通りに演じます。

花道、破風屋根、スッポンも作って頂き、舞台面は歌舞伎をご覧頂くのに何ら違和感はございません。後ろを振り返り見渡すと、少し違う雰囲気ですが…(笑)

今年は歌舞伎座が改築の為、取り壊しとなりましたが、「来年も歌舞伎に来たい」皆様にそう思って頂けるよう益々精進して参ります。

今後ともよろしくお願い申し上げます。