菊五郎・菊之助 役者のことば

2010年3月1日 いつも初役  尾上菊五郎

一ヶ月ぶりでございます。

三月は、いよいよ歌舞伎座が残り二ヶ月という事で「御名残三月大歌舞伎」と大題もつき、三部制で見応え充分となっております。

私は第一部の『楼門五三桐』の真柴久吉、第二部の『弁天娘男白浪』の弁天小僧菊之助に出演いたします。

久吉は、昭和六十二年に二十二日間演じましたが、なぜだか全く記憶にないのです。ですので、自分の中では、初役と同じ気持ちです。

弁天小僧は数え切れないほと演じてきました。だれも数えていないので、何回目かは???です。若い頃は、六代目菊五郎のリアルな弁天に固執しておりましたが、年を重ねた今では、五代目菊五郎のセリフを張る弁天の方が派手で歌舞伎らしくて良い気がしております。平成二十年歌舞伎座でやらせて頂いた時、これが歌舞伎座で最後の弁天かなと思い、次は、新しい歌舞伎座が出来た時、ちょうど七十歳になるのでその時やってみたいと思いました。また、それまで元気でと目標を立てておりましたが、その前に現歌舞伎座の最後の月にやらせて頂く事となりました。

今回は極楽寺山門屋根の上の立廻りはありませんが、新しい歌舞伎座で出来るように、まだまだがんばります。

弁天といえば、新橋演舞場、松竹座、博多座、明治座などなど、それぞれの劇場が開場した月には、必ず演じてきました。巡業などでも多々演じてきました。でも、その都度、南郷役はじめ役者さんが違いますので、いつも一回目、初役だと思って演じています。

歌舞伎座で、七代目菊五郎を襲名した演目でもあります。

歌舞伎座の思い出とともに、私の弁天小僧菊之助もみなさまの記憶に残れば、うれしく思います。

どうぞ、ご覧下さいませ。


2010年3月1日 お土産物売り場  尾上菊之助

歌舞伎座さよなら公演も残り2ヶ月となり2月26日から3月公演の稽古が始まりました。

ご存知おかたもいらっしゃると思いますが、歌舞伎座の狂言の稽古はたいてい歌舞伎座1階のお土産物売り場を片付け、畳を敷いて行います。

お客様にとってお土産物売り場は、幕間にお買い物をなさったりする楽しい場所でしょうが、私にとっては試行錯誤の場です。舞台とは、また別の緊張が走ります。一瞬、一瞬の芝居がこれでいいのか、きちんと性根が全体にかよっているか、慎重に確認しつつ、演技を組み立ててまいります。

今月は、『女暫』の女鯰若菜と『弁天娘女男白浪』の伜宗之助に出演させていただきます。

『女暫』の女鯰若菜は、時代に張るところと世話に砕けるところ、台詞のめりはりに気を付けながら稽古を進めています。「時代に世話あり」「世話に時代あり」といいますが、ただ、ここは時代に、ここは世話におおざっぱにとらえるだけではなく、融通無碍に芝居を作っていくのが大事だと思います。『女暫』は古風な荒事ですから、こせこせしているように見えてはいけません。あくまで、おおらかに演じるように心がけたいと思っております。

意外と思われる方も多いと思いますが、『弁天娘女男白浪』の伜宗之助は、初役でございます。父菊五郎が、これまで数多く弁天小僧を勤めて参りましたが、宗之助を演じるのははじめてです。私も何度か弁天小僧を勉強させていただきましたが、弁天を演じたあとに、宗之助を演じる機会を与えられたのは、大一座となった「さよなら公演」ならではのことと、うれしく思っています。

宗之助は、ただそこにいるだけで、手代ではなく、若旦那に見えなければいけない役です。自分で仕掛けていけないむずかしさがあります。前髪の若旦那の柔らかさを、台詞でも、佇まいでも出せるように、研究をしております。

歌舞伎座の閉場が近づいてきました。これまで当たり前のように稽古していた劇場の空間もあと2ヶ月かと思うと感慨深く、稽古初日には、格別の思いがこみあげてきました。

御名残公演の3月、4月、その毎日を大切に演じさせていただきたく思います。