菊五郎・菊之助 役者のことば

2010年1月1日 新年のご挨拶    尾上菊五郎

あけまして おめでとうございます。
今月は三日より国立劇場「通し狂言 旭輝黄金鯱」の出演、演出です。
初日には、毎年恒例のNHKの劇場中継が入ります。
復活狂言とは言え、大正期よりの上演記録がなく、台本から練り直しております。舞台作りとしては、新作に近いのですが、京都から東京に戻り、五日間のお稽古で幕を開けなければなりませんので、普段の初日とは比べものにならない程の緊張感です。
そんな中、テレビカメラが楽屋にも入り、出番の直前まで収録があります。また、芝居も初日から生中継というのは、恐い思いがあります。(宙乗り、本水と、仕掛けが多いので何事もなければよいのですが……)
初日の収録は普段ならばお断りさせていただきますが(笑)、初春歌舞伎だけは特別です!
この中継をご覧になって、一人でも多くのかたが国立劇場に足を運んで下されば、嬉しい限りです。
鏡開き、獅子舞、お神楽、お茶席、手拭まきなど、華やかな催し物もございます。パッと明るくお正月気分を国立劇場で満喫していただければ、なによりの幸せでございます。
もちろん、お芝居も楽しくできあがっておりますので、是非、ご覧下さい。


2010年1月1日 町屋暮らし     尾上菊之助

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

先月は、京都・南座の東西合同顔見世興行を無事、打ち上げました。ご贔屓のみなさまに厚く御礼申し上げます。

今回の京都滞在では、貴重な体験をいたしました。ほぼ一ヶ月にわたる京都での生活を町屋で送ることができたのです。

父の友人が京都に家を持たれたのですが、ちょうど十二月は訪れる予定がないので、使ってみればどうかとのお話しをいただきました。町屋に住む機会はめったにありません。ぜひにとお願いいたしました。

京都ばかりではなく、名古屋、大阪、博多にも公演で滞在するときは、いつもホテルに宿泊いたします。

ホテルはとても便利です。劇場に出かけているうちにハウスキーピングによって掃除もすんでいます。洗濯物は、クリーニングに出せば、部屋に届いています。両親のもとで暮らしてきた私にとって、今回の町屋での生活は、はじめての一人暮らしといえるかもしれません。

ホテルと違うところは、精神的に休まることでしょうか。なぜかぐっすり眠れて、しかも早起きができました。ホテルが宿泊のための空間だとすると、町屋は居住空間だからでしょうか。よく眠れて、すっきり目覚める。これは私にとって新鮮な体験でした。

もちろん掃除も洗濯も、だれかがやってくれるわけではありません。夜遅く帰って、朝早く出る毎日が一週間続くと、あちらこちらに埃がたまっているのがわかります。ああ、掃除機をかけなければ、埃がたまるものなのだなと、三十歳を過ぎてはじめてわかりました(笑)。

京都には、静かな時間が流れているような気がいたします。町屋のほの暗い空間のんなかに身を置くと、体内時計もゆっくり刻まれているようでした。

朝食も楽しみでした。ホテルでも自炊をすることはこれまでもありましたが、今回は、近所に定食屋さんを見つけて、通いました。お気に入りのメニューは、すき焼き定食。我が家では、朝の比重が重く、焼肉を食べたりいたしますが、習慣になっているのでしょうか。一日の活力を得るために、ずっしりとしたものを朝からいただきました。

十二月は、十時には楽屋入りして、夜の八時頃に楽屋口を出る毎日でしたが、町屋暮らしのおかげで、こころの充実を味わうことができたのが、なによりの収穫です。

歌舞伎役者はマラソンランナーです。まず芸の修業が大切ですが、こころの余裕もまた、よい舞台をお目にかけるためには、とても重要になってくると感じました。

今年は、古典の大きな役をひとつでも多く勉強できればと思っております。みなさまと劇場でお目にかかるのを楽しみにしています。